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2012.05.25

上田義彦「Materia」

最近、かつてないほどに本を買い込んでいる。主に写真集やデザイナーの作品集などで、どちらかというと苦手だった活字の本も少し。

やはりインターネットから得る情報の限界をひしひしと感じているのだ。Googleを始めとするグローバルIT企業はあらゆる情報をオンラインから閲覧可能にするべく邁進しているけれども、やはりウェブ上に無い情報は依然として多いし、今後も大して状況は変わらないだろうと思っている。

特に写真やグラフィックといった図版物を見て消化するには紙の書籍のほうが今後も優位なのは変わりないだろう。だから1年も経てば情報が古くなるビジネス書的な類よりも、普遍的な内容のものを集中して選んでいる。そして、それらを少し見て本棚に積み上げるだけでは惜しいので、このブログにレビューを書いていくことでより深く消化していきたい。
 

ということで、レビュー第一弾は上田義彦の写真集「Materia」。

2011年春に8×10カメラを用いて撮影された屋久島の写真集。上田義彦といえば日本を代表する著名な写真家の1人だけれども、最近まで僕はあまり興味を持てなかった。張り詰めた立体感あるモノクロポートレートが少し記憶に残っている程度だった。

それが最近オープンしたGallery 916で展示されていた同「Materia」シリーズの大判写真を見て一変したのだ。クリストファー・フィリップスが本末のコメントで指摘している通り、写真家の意思で精巧に作り込む今までの手法とは違って、今回のシリーズは自然がもたらす複雑性を素直に受け入れている。
ピンボケや露出オーバーといった要素を含みながら、どちらかというと都市の多面性を捉えるスナップ写真に近い魅力。複雑性を許容することでこれまで以上に豊かな情報が記録されていた。

ミニマムよりも複雑を嗜好するようになった僕にはそれが圧倒的に刺さった。そしてこれは大判の写真集、または展覧会によってのみ伝わる魅力だと思う。

展覧会中に買いそびれて探した挙句恵比寿のNADiffで買ったけれども、どうやらAmazonでも取り扱いがあるようです。
 
→上田義彦「Materia」(Amazon)