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2019.04.01

10年。


 
2009年3月まで京都で建築学生として過ごした後、上京して屋号をつけて、当時はまだ珍しかった千代田区のシェアオフィスに入居して本格的にフリーランスとして働き始めたのが2009年4月。ずっと走り続けて、気がつけばこの街で10年。無事に生きてこられたのは、一重に僕と関わっていただいた全ての方々のおかげなのだと思います。ありがとうございます。

上京した頃はリーマンショックの影響からか電車の中吊り広告が半分程しか入っていなかったり、入っていたとしても無視できない割合で「借金は取り返せます」という広告だったりで、それは僕が生まれて初めて明確に「不景気」を認識した瞬間でもありました。

幸いなことに全く人脈の無かった僕でも無事に生き残ることができて、2016年1月5日には法人化。ここからもまたいろいろなことがありましたが、おかげさまで会社として比較的好調な4期目を迎えています。

もっと「10周年」という達成感が湧いてくるものだと思っていたのですが、実際にその日になってみるとそれは予想以上にあっさりしたもので、(今日はせっかくだからブログを書こうと意気込んでいたのに)むしろ平成の次の元号が発表されたことによる感慨とか、事務所の近所でずっと気になっていたカレー屋さんについに入ることができたとか、そういった出来事の方が印象に残っているようなところすらあります。たしかに10周年といってもそれは僕個人にしか関係のない日ですし、目の前には改善しなければならないことも山ほどあり、心底ただの通過点としか思っていないのかもしれません。

しかし昔通っていた場所を訪ねるとやはりいろいろと思い出すもので、最近は仕事でその場所に向かう用事ができる度に、意味もなく付近を散歩してしまいます。まるで実家に帰省したときのようなスロウな時間が流れている街。もしかすると22歳の頃の僕と道端で出くわすのではないかとか、そうなったら面白いなとか、想像しながらぼーっと歩くのがとにかく楽しいのです。

あの頃の若者は明日もこの街で生きていけるかわからない状況で、いつも何か必死に考えたり、文字に起こしたりしていました。このブログもその頃に始めたものです。毎日が不安で、桜が満開の大通りを歩くときも、いつも考え事をしていたように思います。それがまさか10年経った今、また同じ道を歩いて、同じ桜を眺めて、同じパン屋さんに立ち寄るだなんて。

さすがに10年前になるといろいろと細かい記憶は無くなっていくものですが、それでもその地を歩いていると、パラレルワールドがあるかのようにあの頃の自分と出会えるような、不思議な感覚に満ちてくるのです。いや、あの未熟な若者にむしろ出会ってみたいとすら思うのです。そして32歳の先輩クリエイターとして、説教をしてやりたい。

「大丈夫、あなたの選んだ道は正しい。だから目の前のことに、全力で取り組みなさい」

東京に行くと決めて、卒業式の後に乗り継いだ鈍行列車。春の京都の朗らかな陽気から東に行くにつれて曇りがかってきて、次第に陽が暮れるのをずっと窓から眺めていました。学生時代から仕事を請けていたとはいえたかが22歳、今の自分から見れば知識も実力も大変乏しい若者であったに違いありません。
それでも「会ってみたい」と思うのは、恐らくあの時の僕の決定が人生で最も大胆で、後から考え直しても、当時選べた選択肢の中で最良だったと思えるからなのだと思います。だからその部分だけは褒めてあげたい。先輩として。

極めて個人的な記念日に、ひとつの目標を立ててみたいと思います。それはつまり、後で振り返ってあの頃の若者に「会ってみたい」と自身が思えるように、決して今に対して諦めないことです。