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2017.11.08

無意識のデザイン

※ 写真はWikipediaより引用

わずか40平方メートルという大きさですが人生で初めての自前の事務所を持って、最近建築への興味が猛烈に再燃しています。なぜ再燃なのかというと僕の大学時代の専攻が建築だったからなのですが、それからウェブ制作の世界を突き進むこと8年。ずっと建築は好きでしたが実務を経験したこともなく、自身から少し離れた存在になっていました。

しかしいざオフィスを構えてみると、リノベーション済みの居抜き物件だったのにも関わらず個人的に「足りない」と思うことが山積みだったのです。日常のふとしたことが不便だったり、来客の目線から物足りない部分があったり、長い時間そこで働くという目線からの調整が不十分だったり…物件の鍵を受け取ってからしばらくはとにかく頻繁に、空間の様々な場所に椅子を置いて座ってはじっと観察し、ひとつひとつを収めていったのです。

これはまさしく、僕がひさびさにリアルに「建築」と対峙した瞬間でした。もちろん今回は既存物件を借りただけなので建物を建てたわけではありませんが、実際の空間を対象に複数の要求を解き、体験を整えていったという意味ではそれと同じプロセスを行っていることになります。

例えばテーブルの上のペンダント照明を天井から適切な高さで下げると、空間に芯が生まれます。座ったときには照明でなく相手の顔に集中できる高さであればなお良いでしょう。相手の顔の先に見える壁にさりげなくアートが飾ってあれば、狭い空間にも豊かな奥行きを与えることができます。ほとんどの人はそれをいちいち分析して見ながら過ごしたりはしないと思いますが、居心地よかった、というシンプルな感想に結びつけるために必ず必要な作業になります。それは僕たちの業務である「ウェブサイトをつくる」ということにおいても、同じように必要な配慮になるのでしょう。

上の写真はフィンランドの建築家アルヴァ・アアルトの有名なスタジオですが、8年ぶりにこれを見たとき、20代前半の当時の僕は気づきもしなかった建築的配慮に心底感動し、興奮したのです。
画面左側の窓の位置が高いのはきっとこちらが南側だからでしょう。目の前の作業に打ち込む時に直射日光は邪魔になるからです。しかし天井も含めた高さの設定が素晴らしくて、息抜きに立ち上がった瞬間に空間の気積の大きさ、抜けを感じられることが予想できます。その場合、反対の画面右側は北向きになるため、日光に照らされた外部の緑が美しく見えるように窓が取られていると汲み取ることができます。床や低い位置の色合いが抑えられているため、目線は自然と気持ちのよい天井や窓の方へ抜けていきます。

この空間を設計したアアルトはもうこの世にいませんが、彼が当時何を考えてこれに取り組んでいたのかは今でも想像することができます。何かをつくることと同じくらい、「観察する」というのも大切なことなのではないでしょうか。