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2018.03.21

頼まれてもいないこと

数年ぶりにばったり渋谷の道端で再会した友人と「ひさびさに写真を撮ろう」と意気投合して九十九里浜に出かけたのが去年の夏。それから寝かせに寝かせること半年して、ようやく小さな1冊の本にまとめられました。売り物ではないので印刷はお手軽なグラフィックのオンデマンド。お手軽といっても表紙にニス加工ができたり紙質も比較的豊富で、こういった個人制作にはありがたい存在です。ご覧になりたい方はぜひ弊社オフィスまで。
 
 

TOKYO / Leica M6 + Summicron 35mm/f2 (2nd) + Kodak ColorPlus 200

毎年夏は本業の繁忙期で文字通り忙殺される日々。深夜までずっと事務所で働いては帰宅して寝るだけという生活が続いていた中で撮りに行ったこともあって、コンピュータのスクリーンでなくライカのファインダー越しに見える世界はどこまでも広いラティチュードを持っていて、シャッターを切る度に心身が満たされていく感覚がありました。身体の延長のように扱えるカメラ、とどこかの雑誌で評されているのを見たことがありましたが、まさにそれを体感。多くのものが操作から作動まで電子回路やソフトウエアを経由するようになった今において、フィードバックまでに歯車の遊び分のタイムラグしか無い機械式シャッターカメラの体験は際立っています。
 
 

CHIBA / Leica M6 + Summicron 50mm/f2 (3rd) + Kodak ColorPlus 200

しばらくカメラを触っていなかったので最初は難しかったのでしたが、最後の方ではちゃんと感覚を取り戻すことができました。九十九里浜についた瞬間に雨が降ってきたのがむしろラッキーで、光量も光の周りも安定して写真を撮ることにとてもよく集中できたのです。
 
 

CHIBA / Leica M6 + Summicron 35mm/f2 (2nd) + Kodak ColorPlus 200

頼まれていることで日々が埋もれてくると、どうしても反動で誰にも頼まれていないことをしたくなります。ライフワークで撮り続けている写真は数万枚、一時期は全然撮っていませんでしたが、最近日差しが暖かくなってきたこともあって、またカメラ・フィルムの消費量が増えています。飽きてしまったように見えて、目の前に実はまだまだ自分が気づいていないことがたくさん転がっている、ということを発見したからでしょうか。

あるカメラの広告のコピーで「退屈なのは世の中か、自分か」というものがありました。10年近く経った今でも覚えているくらい印象的な言葉です。どんなにカメラが進化しても、その撮影者にとって見えたものしか写真には写らない。つまり逆説的に写真を見ることで、その撮影者がどれほどの興味を持って世界と接しているかが読み取れてしまうのです。

頼まれてもいない写真なのにその画面が豊かなのだとしたら、それはすごいことなのかもしれません。頼まれたことに対して期待に応える回答を提示できるのがプロフェッショナルですが、僕はそれだけでなく、頼まれていなくても豊かさを生み出すことのできる人間でありたいと思っています。
 
 

CHIBA / Leica M6 + Summicron 35mm/f2 (2nd) + Kodak ColorPlus 200